サイファイ・カフェSHE


La Librairie de Montaigne
(31 mai 2013)

<サイファイカフェ SHE> (Science-Philosophy Cafe SHE = Science & Human Existence) を訪問いただきありがとうございます。
<サイファイ・カフェ SHE> は、科学から生まれた成果だけではなく、科学という営み、科学を支えている精神などについて歴史的、哲学的な視点から見直しながら、最終的には人間理解に至る道を目指して、2011年11月に始まりました。
会の趣旨はこちらに、また過去のまとめは「これまでのSHEとPAWL」にあります。ご覧いただければ幸いです。 
次回の予定は以下の通りです。

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第11回サイファイ・カフェSHE

ポスター


日 時:
2017年6月16日(金)18:30~20:30
会 場: 
ルノアール・飯田橋西口店 2号室

テーマ:
「エルンスト・ヘッケルの科学と人生」

今回は「エコロジー」という言葉の生みの親で、ドイツにおける進化論の推進者だったエルンスト・ヘッケル(1834-1919)の人生と科学を取り上げます。彼は「個体発生は系統発生を繰り返す」という有名なフォルミュールや科学と芸術を融合させたとも言える素晴らしい絵を残しただけではなく、膨大な領域をカバーしています。ゲーテ(1749-1832)やアレクサンダー・フォン・フンボルト(1769-1859)に強い影響を受けたと言われるヘッケルが理想とした科学とはどのようなものだったのか、そして彼を突き動かしていたものは何だったのか。このような問題意識の下、講師が50分ほど話した後、参加者の皆様に考察に加わっていただき、懇親会においても継続する予定です。今回も予想もしないようなところまで話が発展することを期待したいと思います。興味をお持ちの方の参加をお待ちしております。

(2017年5月31日)


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会のまとめ

今回は芸術と科学の融合を目指したエルンスト・ヘッケルという19世紀ドイツの科学者を選んだ。2009年はダーウィン生誕200年、『種の起源』出版150年、ラマルクの『動物哲学』出版200年で、世界中でいろいろな催し物があったが、わたしはイスラエル(テルアビブとイェルサレム)で開かれたラマルクについての会議と英国ケンブリッジで開かれたDarwin 2009に出席した。その時に話をされていた方が2010年カナダのロンドンで開かれた「環境と歴史」会議でも発表されていた。その中に、人生を悲劇的に捉えていたという芸術家が科学者になったような人物が登場した。それがヘッケルである。そして、この人物を紹介していたのがシカゴ大学の歴史学者ロバート・リチャーズ博士であった。その時、すでにヘッケルについての本 The Tragic Sense of Life (2008)を出されていることを知った。

今回はわたしの興味を惹いたヘッケルを取り上げ、その複雑な人生と科学を考えることにした。そのことにより、科学のあり方について示唆が得られそうな気がしたからである。完全にはカバーできなかったが、次のいくつかのポイントについて振り返った。

まず、科学と芸術との関係をどのように考えるのかということである。科学の中に閉じ籠りがちな現代の科学者の視界からは消えていそうな問題である。
ロマン主義が根強く残るドイツで、ゲーテフンボルトのような科学者の影響を受けて育った彼は、科学を論理や理性一辺倒の世界ではなく、主観や芸術などが絡んでくる豊かな世界として捉えていた。絵画の才に長けた科学者だったことも関係があるのかもしれない。彼は芸術と科学の融合を目指していた。しかし、19世紀後半は科学が主観が入り込む余分な世界を切り捨て、できるだけ客観的なものに変容させようとしていた時期でもあった。観察には写真が入り、計測には機器が使われるようになっていった。この中にあって、ヘッケルはあくまでも自らの目と記憶と筆に頼って観察を続けた。これが彼の科学者人生にも大きな影響を及ぼすことになった。

科学における美的価値の組み込まれ方について、興味深い指摘があった。一般的に科学に価値を持ち込むべきではないと言われるが、それは可能なのかという問題である。これは科学の分野によって変わって来るのかもしれない。実用的な結果だけを求めている場合にはそれが見えないことが多いが、物理学や理論的な分野では最初からそこに美があるのかどうかが問題にされるという。これはジャック・モノーだったと記憶しているが、「美しいものが常に真であるとは限らないが、真であるものは常に美しい」という言葉を残している。それは生物学や遺伝学、延いてはすべての科学にも当て嵌まることを示唆しているように見える。


ヘッケルはドイツにおけるダーウィン進化論の強力な喧伝役になり、「ダーウィンの犬」と呼ばれたイギリスのトマス・ハクスリーと並び称された。なぜ彼はそこまで進化論にのめり込んで行ったのか?そこには彼が若くして経験した悲劇があったとリチャーズ博士は見ている。1864年2月、結婚2年にも満たない若妻を胸の病で失った。その日はヘッケル30歳の誕生日であり、Cothenius Medal 受賞の報が届いた日でもあった。キャリアにおける頂点と私生活におけるどん底が同時に訪れた日だったのである。それ以降、彼の世界観は大きな変容を遂げることになる。その後再婚するが、後年に至ってもこの時の傷みを癒すことはできなかった述懐している。

その他にも、
彼が始めたエコロジーという学問はどのような思想に基づいていたのか?「個体発生は系統発生を繰り返す」という表現で広まった反復説はその後どのような評価を受けることになったのか?その際に用いた彼が描いた図には不正行為の批判が付いて回り、現代でもそれが蒸し返されている。しかし、その実態はどうだったのだろうか?リチャーズ博士は当時の時代背景を考慮に入れた寛容な立場を表明し、所謂不正行為は証明できないとしている。科学における観察は主観から完全に自由であり得るのか?主観が入るのは必然ではないのか?これらの点についても活発な議論が行われていた。
 
また、ナチスに利用されることになった彼の思想や人生後半に打ち込むことになる一元論運動(Deutscher Monistenbund)の実態などについては詳しく見る時間がなかった。


興味深い議論を展開していただいた参加者の皆様に改めて感謝いたします。

参加者からのコメント

本日はありがとうございました。また次回以降も予定合いましたら参加させていただきたいと思います。よろしくお願いします。

● 本日は、ありがとうございました。エルンスト・ヘッケルの哲学は、大変興味深く面白かったです。また、みなさんとのデスカッションも意味深いものでした。ありがとうございました。

● 10日、そして昨日16日と、大変有意義な時間を提供くださり心より感謝申し上げます。ヘッケルにつきましては、ダーウィンとの関わりなども皆様とお話しができてかなりスッキリ致しました。10月の講座も楽しみにしております。これからも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

● 先日はサイファイ・カフェSHEにご招待くださり、誠にありがとうございました。科学と美的価値という一見相反する2つの要素に関連を見出していたエルンスト・ヘッケルの自然観はとても新鮮でした。また、彼はドイツに進化論を広めた人物として知られていますが、彼の提唱する進化論はやや曲解されているというか、ダーウィンの意図したところとはかなりかけ離れてしまっているように感じました。機会があればナチスとの関わり等についても、改めて掘り下げてみたいと思います。またの機会を心よりお待ち申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。まずは御礼まで、失礼いたします。


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(2017年6月19日)